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東京地方裁判所八王子支部 昭和46年(ワ)23号 判決

原告

小林賢次

被告

東京電力株式会社

主文

被告は原告に対して金二一〇、四二五円及びこれに対する昭和四六年一月一九日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は三分し、その一を被告の、その余は原告の負担とする。

この判決は、第一項に限り仮りに執行することができる。

事実

一  当事者双方の求めた裁判

原告 「被告は原告に対して金七〇六、八一〇円及びこれに対する昭和四六年一月一九日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え、訴訟費用は被告の負担とする、」との判決、ならびに仮執行の宣言。

被告 「原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする、」との判決。

二  請求の原因

1  原告は、昭和四五年八月二八日午後四時五分ころ、自転車で五日市街道方面から昭島駅方面に向かつて走行し、東京都昭島市拝島町四、〇七一番地先路上に差しかかつた際、同所に設置された電柱(堀向二二〇号柱)の裸支線に、左足部分を接触させ、左方第三切断創、足背挫滅創の傷害を受けた。

2  右電柱及びその支線は、被告会社が設置して占有している土地の工作物である。

3  被告の設置した右支線には、次のような瑕疵がある。

(1)  本件支線は、路肩から八三センチメートルも道路内に入つた場所に設置されていて、通行人(歩行者、自転車)が接触し易い状態におかれている。

(2)  しかも、この支線は太さ三センチメートルのワイヤーロープであつて、空間にある状態では通行人の目からは見えにくいものであるばかりでなく、殊に光線の具合等によつては更に発見しにくいものとなり、よほどの注意を用いないと通行人が衝突し易いものであり、通行人が衝突すれば人体を損傷する危険性のある危険物である。

(3)  このため、このような支線には通常、地上から一八〇センチメートルないし二〇〇センチメートルまでの間に人目につきやすい黄色のビニール製支線ガードが取りつけられているのに、本件支線には何らのガードも取りつけられず、太さ三センチメートルのワイヤーロープが裸のまま、電柱の頂上部から地上まで斜めに空間にひかれている状態であり、この支線の地上三〇ないし四〇センチメートルの部分には、ワイヤーロープの撚り合わせた輪と組んだ継ぎ手部分が露出していた、

(4)  そして、本件支線の設置されている道路は、自動車の交通量が多く、歩行者、自転車通行者は必然的に道路側端を通行しなければならず、したがつて支線は歩行者等の通行の妨げとなつていた。

(5)  したがつて、本件支線は、その設置の場所、態様からみて、ほんらい通行人を保護するために、その所在を明白ならしめるための防護設備として支線ガードを施すべきであつたのに拘らず、これを設けていなかつたから、この支線の設置について重大な瑕疵があつたものというべきである。

4  原告は、自転車で通行中に、右支線の地上三〇ないし四〇センチメートルの部分にあるワイヤーロープを撚り合わせた輪と輪の継ぎ手部分に左足の第三を突込んだため、前記の傷害を受けるに至つたものであり、明らかに右支線の設置に瑕疵があつたために生じた事故であるから、被告は、この事故によつて蒙つた原告の損害を賠償する責任がある。

5  原告は、この傷害により、受傷の日から一四日間野村医院に入院し、その後昭和四五年一一月二日までの間に実日数四四日間同医院に通院して、それぞれ治療を受けたが、第三切断により、自動車損害賠償保償法施行令別表所定の第一三級九号に該当する後遺症が残るものと診断されており、このため次のような損害を蒙つた、

(1)  治療費 金四六、八一〇円

イ 入院治療費 金二〇、二〇〇円

ロ 附添費用 金一四、〇〇〇円

ハ 入院雑費 金二、八〇〇円

ニ 入退院交通費 金四〇〇円

ホ 通院治療費 金四、四五〇円

ヘ 通院交通費 金四、九六〇円

(2)  逸失利益 金二〇〇、〇〇〇円

後遺症による労働能力喪失に伴い、将来得べかりし利益を喪失したことによる損害、

(3)  慰藉料 金三四〇、〇〇〇円

本件事故によつて蒙つた精神的損害ならびに後遺症等によつて受ける精神的苦痛を慰藉するに相当な額、

(4)  弁護士費用 金一二〇、〇〇〇円

本件事故によつて蒙つた損害について、被告に対して再三にわたつて任意の支払いを求めたが応じなかつたためやむなく原告代理人らの弁護士に委任して本件訴訟を遂行し、そのための手数料、報酬として金一二〇、〇〇〇円を支払う約束をし、同額の損害を蒙つた。

(5)  以上合計 金七〇六、八一〇円

6  よつて、被告に対して、損害賠償として金七〇六、八一〇円及びこれに対する訴状送達の翌日の昭和四六年一月一九日から支払済みに至るまで、民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

三  答弁ならびに主張

1  請求原因事実の認否

請求原因1の事実は不知、2の事実認める、同3の事実中本件支線が道路境から八三センチメートルのところに設置されていること、右支線がワイヤーロープ製であること、ならびに支線ガードが取りつけられていず、輪と輪の継手部分が露出していたこと、は認めるが、その余の事実は否認する、同4の事実は否認する、同5の事実は不知、同6の主張は争う。

2  本件支線は、電柱(堀向二二〇号柱)と一体して、設置保存に関しては、電気設備に関する技術基準に準拠し、道路使用については道路管理者の許可を得てこれを行い、常時安全性状を保有しているもので、何らの瑕疵もない、

(1)  本件堀向二二〇号電柱は、昭和三四年一〇月に設置したものであるが、当時既に道路側端に、幅員四七センチメートルの側溝が施設されていたため、道路管理者の指示にもとづき、これよりも更に道路中央寄り八六センチメートルの部分に建立し、これが支線もしたがつて側溝から道路中央寄り三六センチメートル、道路側端から八三センチメートルの地点に埋設したものである。

(2)  そして、本件支線附近道路の交通量は一分間に片側二台ないし三台で、さして頻繁というものではなく、道幅は九・一メートルもあるから、歩行者等が路端を通行しなければならない事情にはなかつた。

また、右支線の空間にある状態が非常に見えにくいということはなく、よほど視力の弱い者や、わき見しながら通行するもの等を除き、通常前方を向いて道路を進行している以上、当然に右支線が視界に入り、これと接触、衝突するようなことは生じ得ない、殊に本件電柱は、いわゆる「ひき止め」といわれて、架空線がその電柱で一たん終つて、それから先は地下に入つている箇所であるから、特に目につき易い状況にある。

(3)  支線は、路端、遊園地、田畑等各種の地点に設けられており、自動車の接触、衝突、子供のいたずら、耕作中の鍬、耕運機の接触等によつて、支線が損傷されその結果電柱が傾き或いは電線にゆるみを生ずるなどして電気事故を発生するおそれがある場合に、これを防護する目的で支線ガードを設けているが、このガード設置の目的は、あくまで支線を防護して、これの損傷による電気事故発生を防止するためのものであつて、通行人保護を図るためのものではない。

しかも支線は、鋼鉄線を七本撚り合わせただけのもので鋭利にとがつているとか、刃がついているものでもないから、かりに人がこれに接触しても何らの危険を生ずるものではない。

このため、支線ガードは、このような設置目的等にてらして必要と認められるものに随時取り付けているもので一律に取り付けているわけではなく、事故当時の現場附近における取付率は二八・八%であつた。したがつて、本件支線に、ガードの取付けがなかつたからと云つて、それが工作物設置の瑕疵となるいわれはない。

3  本件支線の設置された道路は、ほぼ南北に通じており、原告主張の時刻には大陽は支線の右側にあつたはずで、原告の進行方向からは容易にその存在を発見し得たものであるのみならず、当時現場附近の道路沿いには、高さ一メートルに及ぶ夏草が道路内一メートル位まで一面に繁茂していて、本件支線の埋設地点は、この草むらの中に入つている状態で、人や自転車が通行するには必然的に草むらよりは更らに道路の内側部分を通ることになり、何らか特別の理由で草むらに入り込まない限り、通常の方法で通行していて支線に接触するようなことはあり得ない状況であつた。したがつて、原告が本件支線に接触し、しかもそのを接続部分の輪の中に突込むなどということは 通常あり得ないことであつて、かりにその事実が認められるとしても、それは原告の一方的過失にもとずくもので、本件工作物の設置保存に瑕疵があつたためではない。

四  被告の主張事実に対する原告の反対主張

1  被告は、支線ガードは、支線保護のために設置している旨主張するが、これは誤りである、ほんらいガードは、人の目につき易い黄色にすることで自動車の運転者等に支線の存在を知らせて支線のそのものを保護すると共に、鋼鉄製の支線のうち、ほぼ人体の高さに等しい部分をビニール製のガードで覆うことにより支線から人体を守るためのものであり、したがつて、人の身体等が支線に接触して損傷を受けるおそれのある個所にはすべてガードを取り付けて人体を保護すべき義務を負うものである。

2  本件支線は、非常に見分けにくい場所に設置されていたもので、原告は通常の姿勢で道路左側をゆつくり走つているうちに、本件支線に衝突するに至つたものであつて、本件事故発生については何等の過失もない。

五  〔証拠関係略〕

理由

一  〔証拠略〕を総合すると、原告は、昭和四五年八月二八日午後三時半頃、自宅を出て自転車で米空軍横田基地に飛行機見物に行き、帰路同日午後四時二〇分ころ、五日市街道から拝島方面に通ずる道路を拝島方面に向けて東京都昭島市拝島町四、〇七一番地先に差しかかつた際、同道路左側に設置されていた電柱(堀向二二〇号柱)の支線の、地上約二二センチメートルにある鋼鉄線を撚合わせた継手部分の輪に接触し、ゴム草履をはいていた左を引つかけ、左第三切断創、足背挫滅創の傷害を受けた事実を認めることができる。

二  原告が負傷した、右電柱(堀向二二〇号柱、以下単に本件電柱という)及びその支線が、被告会社が設置して占有している土地の工作物である事実は当事者間に争いがない。

三  〔証拠略〕を総合すると、

1  本件電柱は、五日市街道から南方昭島市拝島町方面に南北に通ずる通称堀向道路と称される幅員約九メートルの舗装道路の東側、路端から約八六センチメートル道路内に入つた地点に設置された地上からの高さ一〇・八メートルのコンクリート柱で、南方から順次並列して立てられた電柱の引き止めとして、その最北端に位し、本件電柱まで架空電線路であつたものが、本件電柱を境として、ケーブルにより地下に埋設された電線路に通じていること、

2  本件電柱の支線は、地上約一〇メートルの電柱部分から、電柱の北方一一・六五メートル、路端から約八三センチメートルの地点まで、ほぼ斜めに延びた三センチメートルの鋼線(二・三ミリメートル線七本を撚り合わせたもの)七・四メートルと、地下に埋設した支線棒とを接続したものでその総体の長さは、七・九メートル、支線棒は、四二度の角度で右鋼線と結ばれ、継手部分は支線棒の約八センチメートルの輪の部分に鋼線を差し込みこれを撚り戻し、結局地上約二二ないし三一センチメートル部分に輪がつくられて本件電柱を補強する目的で設置されていること、

3  そして、本件電柱は、引止め柱であるため、通常の電柱支線よりも強度を必要とされるので、電柱から支線棒に至る鋼線の張角がせまく、したがつて、電柱から支線棒までの距離が長く設計されていること、

4  そして、堀向道路東側は、本件電柱建立地点から北八、九メートルまで、路端に幅約四七センチメートルの有蓋測溝が設置されていて、道路管理者の指示にもとずき、道路端から九〇センチメートル以内に本件電柱を設置すべきことを指示されたため、道路端から八六センチメートルに設置し、その支線棒も道路端から八三センチメートルの地点に設置したものであること、

5  本件電柱及びその支線の設置された道路は北方約三〇〇メートルで五日市街道と交差し、路面は平坦で見とおしは良好であり、道路東側は空地で、その北方約三〇メートルに立川バス株式会社のバス折返駐車場が設けられた外は雑木林で囲まれ、西側に昭和飛行機株式会社変電所があるほかは畑で、本件電柱附近は住宅等がなく、その南約二〇〇メートル位の辺りから道路両側に住宅が建ち並び、南方約一五〇メートルから追越禁止の道路と指定されていること、

6  本件電柱の設置された道路の交通量は、昭和四六年一月二二日の調査によると、同日午後一時から三時までの間に、北方に向けて自動車四〇三両、自転車三台、歩行者七人、南方拝島町方面に向けて自動車四三六両、自転車五台、歩行者一人であり、自動車の通行量は多いものの、自転車、歩行者は少数であつたこと、

7  本件電柱及びその支線は、その設置点から北方三〇メートルの路端附近から望むと、本件電柱及び支線が重なり、路端より一・五ないし一・九メートル道路中央から望むと、本件電柱より南側に設置された第二一九号電柱と重なり、同二〇メートルの地点では路端から五〇センチメートル道路中央寄りの地点で本件電柱と、同一メートルの地点では第二一九号電柱及び前方の建物、看板等にそれぞれ重なり七メートルの地点では路端から一・二メートルで本件電柱とその支線との間隔が目通りの高さで約一〇センチメートルであつて、光線の具合、明暗の度合などによつては必ずしも支線の存在を容易に発見し難いこと、の各事実を認めることができる。

この認定事実によると、本件電柱及び支線の設置された場所は、いわゆる郊外地であつて、自動車交通量は相当程度あるものの、人家等も少なく、歩行者の交通量の少ない地点であり、道路端より八六センチメートル内側に設置したとしてもそれ自体設置又は保存に瑕疵あるものとすることはできない。しかし、本件電柱を補強するために設けられた支線は、太さ三センチメートルの鋼撚線で、それ自体夜間、雨天等に看過し易いものであるうえに、地上三〇センチメートル附近には支線棒及び鋼撚線の継手部分が輪を形づくつていて、歩行者自転車等、道路の側端を通行することを要するものには、これを看過して接触する危険性の高い危険物といわなければならないものであり、殊に引き止柱の支線であるため、忽然とはじめて路上に出現する形となつて、道路事情を知らない歩行者等の通行の障害となり兼ねないものというべきである。

四  ところで架空電線路を支持する電柱、支線等は、ほんらい電気工作物として、電気事業法第四八条により、人体に危害を及ぼし、又は物件に損傷を与えないように設置すべきことはいうまでもないところであり、高度の危険を伴う土地の工作物として、送電による感電、漏電等による事故発生の危険防止は勿論、工作物そのものによる事故発生の危険をも防止するように留意して設置しなければならないものであつて、工作物そのものによつて事故発生の危険が予測されるときは、その危険防止のために有効な最少限度の設備を施さない限り土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があるものとして、これによつて生じた事故について、民事上の責任を負担しなければならないものと解するのが相当である。

これを本件についてみると、前示のように本件電柱と一体をなすその支線はそれ自体事故発生の危険を伴うものであり、殊に夜間、雨天等の際に通行の人車等の目に入り難く、或いは電柱等に重複して発見しにくい場合も生じ得るものであつたから、少なくとも人車等が容易に発見して予じめこれを回避できるような目じるしを施す必要があつたものといわなければならない。

五  〔証拠略〕によると、

1  原告が、本件電柱の支線附近を自転車に乗つて通行した頃本件支線は、道路端から約一メートル道路中央寄りまで、高さ一メートル位の夏草が繁茂しており、その草の生え際あたりを、自転車のペダルを踏んで走らせ、後方からくる自動車を避けつつ進行してきたが、後方に気をとられて本件支線があることに気ずかずに、本件支線の継手部分に、裸足でゴム草履をはいていた左足第三部分をひつかけ、その衝撃で前認定の傷害を受けたものであること、

2  したがつて、本件支線に、容易に目につき易い目印が施されてあれば、支線に気づいて本件事故を回避できたものであること、

3  被告会社では、自動車等が支線に衝突し、或いは子供が遊戯用に支線を利用する等して支線を損傷されることを防止するため、かような事故発生が予測される支線には、支線防護のために支線ガードを設けていること、

4  支線ガードは、従前は木材類を用いたが、昭和四三年一二月以降は、厚さ二・五ミリメートル、長さ二メートルの黄色ビニール製品で、支線棒及び鋼撚線を包むようにして、ほぼ地上から一・三メートル位の高さまで、支線を覆うこと、

5  本件支線を含む近隣一五〇本の電柱支線のうち一五ケ所に支線ガードが設置され、主として店頭、車両出入口、道路交差点、公園等の支線が設置対象とされていたこと、

6  ビニール製支線ガードは、黄色で、それ自体鋼撚線より太く、目立ち易く、自動車等の接触防止に役立ち、支線保護の効果をあげており、一個の価格は三、〇〇〇ないし四、〇〇〇円で、本件支線附近については被告会社多摩支店立川営業所配電課長の判断で、取付対象となる支線を決定設置していること、

7  そして本件事故発生後間もなく、本件支線にも右ビニールガードが設置されたこと、

の各事実を認めることができる。

してみれば、本件電柱の支線には、その目印ともなりかつ支線保護にも役立つ支線ガードが設置されていれば、通行人車等が容易にその存在に気づいて、これとの衝突、接触等を回避し得たばかりでなく、継手部分を含む地上の人体の高さに近い部分がビニール等によつて覆われていて、衝突、接触等による衝撃或いは継手部分に手足を差し込むというような危険を回避できたものというべきであり、原告の本件事故もまたガードが設置されていれば少なくともを引つかける事故は防止できたものと認めるべきである。

六  本件支線に、支線ガードの設置されていなかつた事実は当事者間に争いがない。

したがつて、本件事故は支線の危険防止に必要なガードを設置していなかつたために生じたものであり、これを設置しなかつたことが土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があつたものとして、被告は本件事故によつて生じた原告の損害を賠償する責任を負うものと認めるのが相当である。

七  〔証拠略〕によれば

1  原告は本件事故当時一三才の健康な男児であつたが、本件事故により、昭和四五年八月二八日から同年九月一〇日まで野村病院外科に入院し、更らに同月一一日から同年一一月二日までの間通院治療したが、左第三挫滅欠損により労災補償等級第一三級九号に該当する後遺症を残存したこと、

2  このため原告は、次のような損害を蒙つたこと、

(1)  治療費 二四、六五〇円

イ 入院治療費 金二〇、二〇〇円

ロ 通院治療費 金四、四五〇円

いずれも右野村病院の入通院治療費として同病院に支払つた。

(2)  入院雑費 金二、八〇〇円

入院一四日間の雑費として、一日金二〇〇円を支出したものとして計算した金額

(3)  附添費用 金一四、〇〇〇円

入院期間中主として原告の母小林美千子が附添看護にあたつたためで、これを一日金一、〇〇〇円として算出した看護料、

(4)  交通費 金四〇〇円

野村病院に入院及同病院を退院する際にタクシーを利用し、そのために支出した金額、

(5)  精神的損害の慰藉料 金三四〇、〇〇〇円

原告が本件事故による傷害及びその後遺症により多大の精神的苦痛を受けたので、これを慰藉するのに相当と認められる慰藉料

の各事実を認めることができる。

原告は、その余の損害の発生をも主張するが、これを認めるに足りる証拠はないし、将来の逸失利益を認めるべき理由もない。

したがつて、原告は本件事故によつて合計金三八一、八五〇円の損害を蒙つたものと認めるべきである。

八  被告は、本件事故発生について原告にも過失があつたものと主張するところ、前認定の本件事故発生の状況、原告の年令等一切の事情を考慮すれば、本件事故は、原告が進路前方を通常人の用いる程度の注意をして走行していたならば、本件支線をあらかじめ発見して危険を回避できたものとみるのが相当であり、したがつて本件事故発生について原告にも過失があつたことは明らかで、その過失割合は原告において、その五割を負担するものとして、本件事故による損害から相殺すべきである。

してみれば、本件事故による前記損害は、そのうち金一九〇、四二五円を被告に支払いを求め得るものとなる。

そして、〔証拠略〕によれば、原告の本件事故による損害賠償を求めるため、原告法定代理人らが再三にわたつて被告会社に接しようをしたが、被告の応ずるところとならなかつたため、やむなく原告訴訟代理人弁護士を委任して本件訴訟の遂行に当らせ、その手数料及び報酬として金一二〇、〇〇〇円を支払う約束をした事実を認められるところ、本件訴訟の経過に鑑み、そのうち金二〇、〇〇〇円を、相当因果関係ある損害として被告に負担させることが相当である。

したがつて、原告は被告に対して合計金二一〇、四二五円の損害賠償請求権を取得したものというべく、その余の請求は理由がない。

九  よつて原告の本訴請求は、被告に対して金二一〇、四二五円と、これに対する本件訴状送達の翌日であることが明らかな昭和四六年一月一九日から支払済みに至るまで、民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条、仮執行宣言につき同法第一九六条第一項を適用し、主文のように判決する。

(裁判官 瀧田薫)

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